不安について
不安はあっていいもの? よくないもの?
「石橋を叩いて渡る」…ということわざがあります。
物事に慎重にあたる。。という意味なのですが
中には
『石橋を叩く棒をたたき割ってしまうほど叩かないと渡らない人』
それどころか
『叩き割っても渡らない人』
反対に
『叩くことなどせずに、渡ってしまう人』
・・・なんて人もいたりします(^-^)
たとえば我が家の息子の場合
(彼はADHD(注意欠陥多動性障害)の特徴をもっています)
先の見通しを立てることが少し苦手です。
なので、あまり先のことに対して心配してどうのこうの、、、ということがありません(^^;
上記の例えで言うと
『叩くこともせずに思い込んだらさっさと渡って』
失敗することも多いです(^^;
でも、だからと言って生活に大きな支障がでているわけでもなく
大事な部分はそれなりに石橋を叩くこともあるのです(^-^)
(車の通る道を渉る時などは、びっくりするほどとっても慎重)
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脳生理学者キャノン(Cannon)という有名な人が
生物が危機的状況に直面したときに、不安や恐怖を瞬時に感じて
「闘争か逃走」という態度をとることを実験を通して説明しています。
そしてこの不安や恐怖は、生物が危機的状況から身を守り
生態系を維持していくための「警報システム」であるとも言っています。
現代の生活では、大昔の生き物たちのような『毎日が生命の危機的状況』というのはあまりありません。
でも、精神的にはストレスを引き起こす事柄はたくさんあります。
心や体が必要以上のストレスや危険にさらされないように
不安や恐怖という感情は、警報を発して知らせてくれているのです。
こう考えていくと
「不安」や「恐怖」といった感情は
人間に備わっている大切な感情である…とも言えるのではないでしょうか。
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脳のしくみ
「不安」や「恐怖」の感情は
危機や困難な状況が近くにあることを私たちに知らせてくれます。
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人間の脳には、一番外側の大脳、その内側にある大脳辺縁系
そしてさらにその内側に視床下部(脳幹とか中脳などとも呼ばれています)という部分があります。
危険やストレスを感じると、まず 『大脳』 の中にある前頭葉で状況を判断します。
そして今度は「感じる脳」である 『大脳辺縁系』 で「不安」や「恐怖」を感じ、
自分にとってどのくらいの危機的状況なのか、、を察知します。
もしも「これは大変!」ということになると
次に 『視床下部』 という無意識・生命維持のための中枢が働いて
「闘うか、逃げるか」という判断を下し全身がその態勢に入ります。
こんな風にして
私たちは危険やストレスから身を守っているのです。
また、『大脳』 は 『視床下部』 に対して直接、意図的な働きかけをすることが
ほとんどできないことも分かっています。
『大脳』 では心理的・生理的現象は瞬時に変化していくのに対して
『視床下部』 では、月単位の時間が必要だとも言われています。
たとえば食欲中枢が 『視床下部』 にあることから
摂食障害の方の治療には月単位の時間が必要なことも分かっているそうです。
パニック発作などの自律神経発作(心悸亢進、呼吸困難、発汗、めまいなど)は
視床下部にある青斑核(せいはんかく)という中枢が刺激されることで起こるそうです。
カフェインなどを取り過ぎると、この青斑核が刺激されることが分かっています。
(参考文献: 「不安症の時代」日本評論社、「気になる子 理解できる ケアできる」学習研究社)
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「不安」との付き合い方
日常生活を少しでも安全に過ごしていくためにも
「不安」や「恐怖」という感情は必要です。
「忘れ物をしていないかな?」
「約束した時間を覚え間違いしていないかな?」
と不安になって再確認したことで、気づいてよかった~と胸を撫で下ろしたことのある方も
きっと何人もいるでしょう(^-^)
動物園のライオンの檻に誰も指を突っ込まないのは
「恐怖」の感情があるからですよネ(^^;
ただ、
この「不安」や「恐怖」が必要以上に強すぎたり、なかなか消えず長く続いたり
本当なら感じなくてもいいはずなのに感じてしまったりすることも
時にはあったりします。
また、自分の体調の変化に敏感になりやすい人は
自然な生理現象としてのドキドキとか発汗とか、緊張による胃腸の具合の変化とか…
にとらわれ過ぎてしまうこともあります。
(私自身も以前はその傾向がありました ^^; )
そうすると、その生理現象をなんとか抑えたい、なくしたいとずっと気にしてしまいます。
普段なら放っておけば治まるドキドキが、気になることでますます敏感になって「不安」になり
「不安」になったことで前述の「視床下部」が反応してドキドキしたり発汗したり
胃痛になったり下痢になったり…
という悪循環に陥ってしまうこともあります。
(この悪循環のことを 『精神交互作用』 と言います)
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さて
こんな悪循環に陥りそうになったらどうすればいいのでしょう?
私たちは普段、気がつかないうちに
「不安」や「恐怖」に対していろいろな対処をしていたりします。
たとえば、友達に話をすることでホッとしたり。
好きな映画やコンサートに行って、モヤモヤを晴らしたり。
ぜんぜん違う作業に没頭して考えないようにしたり。
「これで命を取られるわけじゃないし」とか
「考えてみれば前にも同じことがあったけど、なんともなかったし」
とか、自分自身に言い聞かせてみたり。
ゆっくりお風呂につかったり、マッサージに行ったり
ドライブしたり、カラオケに行ったり…
そうそう、深呼吸して気分を落ち着かせたりもしますよネ(^-^)
こんな風にして、「不安」を早めに解消していくことで
また元気に普段通りの生活をしていくことができればいいですネ。
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医療機関やカウンセリングルームを利用しよう
自分で「不安」な気持ちを落ち着かせようとやってみたけれど
なかなか上手くいかないなぁ…
と感じている方は
医療機関やカウンセリングルームのカウンセリングを受けてみたり
気持の落ち着けるようなセラピーを受けてみたり
お薬を飲んでみるのもいいと思います。
たとえば、気持ちを落ち着かせる方法として
『自律訓練法』や『筋弛緩法』というものがあります。
『自律訓練法』は、ゆっくりした呼吸をしながら、自分自身に向って
「気持ちが落ち着いている」
「右手(左手)が重たい」
「右足(左足)が重たい」
「右手(左手)が温かい」
「右足(左足)が温かい」
と語りかけていきます。(声に出す必要はありません)
何度か練習をしていくと、
たとえば今から会議があるときとか、試験の前とか
「不安」を感じた時に自分で自分をリラックスさせることができたりします。
(方式があるので、自律訓練法の研修を受けた専門家に最初は指導を受けて下さいネ。)
『筋弛緩法』とは、体の力を抜いて緊張で縮こまった筋肉をほぐすコツをつかむ練習です。
また、はたから見てもとても辛そうだったり
「不安」や「恐怖」が我慢できないほど強かったり
体の調子がとても悪くなったりしているときは
状態がそれ以上悪くなってしまう前に
ぜひ、医療機関でお薬を処方してもらって欲しいと思います。
前述の『大脳辺縁系』の不安に関係する中枢に作用する 『抗不安薬』 は
副作用が少なく、短時間で効き目が表れます。
お薬に頼りすぎは良くありませんが
「不安」がありどうしても生活上不便なときに服用することで
気持ちに余裕を持つことができる…
ということも、とても大切なことではないかと思います。
お薬を飲むのにどうも抵抗がある…という方も、
カウンセリングなどの精神療法を勧める場合には、あまりにも強い「不安」があると
なかなか前に進んでいけなかったりしますので
風邪をひいたときに早めに薬を飲むような感覚で
医師の指示に従って服用されてはと思っています。
カウンセリングルームでは医療行為はできませんので、お薬の処方はしませんが
不安な気持ちをお話して頂いたり、自律訓練法などのリラックス方法を
練習したり
少しずつ「不安」な状況に慣れていく練習をしたり
いろんな考え方があることを見つけたり、セラピーで気持ちを和ませたり…
クライエントさんの状態にあった方法を一緒に考えながら
少しずつ穏やかな気持ちを取り戻していけるようにしていきます。
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何にしても、真面目な方や一生懸命頑張っている方の中には
「このくらいのことは我慢しなくちゃ…」
とムリをされる方がたくさんいらっしゃいます。
ムリをしてご自分の体や心をとても辛いところまで追い込んでしまうと
今度はそこから回復するのに時間と労力と
費用までもがかかってしまいます。
風邪をこじらせると肺炎になってしまうことのあるように
心の症状もこじらせないうちに早めの対処をしようと決心するほうが
長い目で見れば、自分自身だけでなく、周囲の人たちにとっても
とても良いということにもなると思います。
「大したことない。。」と思っている今がチャンス
だと思って
ぜひ早めに対処をしてもらえたらなぁと思っています(^-^)